2-4『衝突地点』


時系列は追突直後まで戻る

指揮車は周囲に盛大に砂煙を巻き上げながらも、ようやく停止した

82車長「ヅッ……皆、無事かぁ!?」

特隊A「痛ってぇ……今のは何です!?」

82車長「目標の馬車に追突しちまったんだよ!タイミングの悪さが重なってな!」

そこへ高機動車からの通信が入る

補給『ハシント応答しろ!そちらの状況は!?』

82車長「こちらハシント、乗員は皆無事です。目標のほうは……」

82車長は目と鼻の先で横転している馬車に目を落とす

82車長「……確認してみない事には分かりません」

そして苦い表情で無線の向こうへと伝えた

補給『分かった。護衛の騎兵がそちらに向っている、まずは身を守れ。
    我々もすぐにそちらに向う』

82車長「了解、交信終了……交戦準備しろ、敵がこっちに群がって来るぞ!」

交信を終え、82車長は車内に向けて叫ぶ

武器C「そらそうだろ。大老の乗った駕籠が、おも糞にぶっ飛んでったんだからよ」

特隊A「行くぞ」

皮肉を呟きながら、特隊A等は後部扉から降車してゆく

82車長「82操縦手、お前も車上に上がれ!」

82操縦手「あー、はい」

82車長は操縦席に指示を飛ばすが、82操縦手の返答は生返事だった

82車長「おい、分かってるか!?」

82操縦手「分かってます、上がりますよ」

再度答えながらも、82操縦手の視線は眼の前のフロントガラスに向いている
そのフロントガラスの向こう側には、指揮車の先端に乗っかり、
光の消えた目でこちらを見る、御者と思われる人間の亡骸があった

82操縦手「困ったもんだ」

言いながらも、82操縦手はすぐ側にある護身用の銃に手を伸ばす
月詠湖の王国で使用していた9mm機関拳銃は現在別の所に回っており、
82操縦手が手繰り寄せたのは、100式8mm機関短銃だった
弾倉を装填し、82操縦手は席から立ち上がる

82操縦手「悪いね」

天井のハッチをくぐる前に、82操縦手は顔色を変えずに一言、
亡骸に向けてそう発した



82操縦手は車上に上がり、周囲をぐるりと見渡す
特隊Aと武器Cは指揮車の回りに展開し、周辺の警戒を始めていた

82操縦手「派手にやったなぁ……あ」

目前の横転した馬車の惨状を見てつぶやいた82操縦手だが、
その直後、馬車に動きがあるのに気付いた

82操縦手「車長」

82車長「あ?どうした」

82操縦手「あれを、馬車から人が」

言いながら眼の前の横転した馬車を指し示す
馬車の扉が半分程開き、そこから人が這い出て来ていた

82車長「ッ、あいつ!」

82操縦手「捕獲目標かもしれませんが」

82車長「糞、おとなしくしてりゃいいのによ……特隊A、馬車から

人が出て来てる、確保しろ!」

特隊A「分かりました。武器C、来い!」

武器C「チッ!」

特隊Aと武器Cは指揮車の影を出て、横転した馬車へと走った

商会側近「ぐ……一体何が……」

横転した馬車から出てきたのは側近の男だ
扉から半身を乗り出し、外の様子を伺おうとしている
だがそこへ馬車の上に飛び乗った特隊Aが、半分開いた扉を思いっきり踏みつけた

商会側近「ぐぁッ!?」

商会側近は扉に挟まれ、彼の体に鈍痛が走った
特隊Aは怯んだ商会側近の両肩をつかんで、今は地となった馬車の側面に
思いっきり叩きつけた

商会側近「がッ!」

二度の衝撃によって、商会側近は気を失う
特隊Aは失神した商会側近の体を馬車の中へと押し戻した

商会員A「ひッ!?そ、側近……!?」

その時、中から他の人間の悲鳴が聞こえてきたが、
特隊Aはそのまま扉を閉め、そして自分の体で扉を塞いだ

商会員A「な、何がどうなっているのだ……!?おい、誰かぁ!」

塞いだ扉の向こうからは、叫び声と内壁を叩く音が聞こえてくる

武器C「どうします?引きずり出して確保しますか?」

82車長「特隊A、手早く済ませろ!敵が接近して来てるぞ!」

武器Cが提案するが、その直後に82車長の怒鳴り声が聞こえてきた

特隊A「ダメだな、俺達だけじゃキツい。82操縦手、車内に閃光弾あっただろ!?寄越してくれ!」

特隊Aの要求に、82操縦手は車内から閃光発音筒を取り出し、投げて寄越した
特隊Aは肘で馬車の壁の一部に穴を開け、そこから閃光発音筒を投げ入れる

特隊A「耳塞げ!」

数秒の間隔を空けて、馬車の内部から衝撃音と、

商会員A「ぐぁぁッ!?」

人の叫び声が聞こえて来た
その後、馬車の内部からはかすかな呻き声が聞こえるのみとなった

特隊A「これでしばらく大人しいだろ。武器C、お前あっちに戻れ。
     ここは俺が見張りながら防衛する」

武器C「分かりました」

馬車の見張りを特隊Aに任せ、武器Cは指揮車へと戻った

82車長「武器C、北から軽騎兵二騎、東からは重装騎兵が三騎来るぞ!
      馬車にべったりくっついてた奴等だ!」

武器C「糞、羽虫みてぇに……」

82車長「北から来る奴等を頼む!俺は東の重装騎兵をやる!」

言いながら82車長はハッチから這い出た
自身がハッチに納まったままでは、指揮車の真後ろから来る重装騎兵に
重機関銃を向ける事ができないからだ
そして武器Cは再度指揮車の影に隠れ、軽機を構える

武器C「俺たちゃ道を封鎖するだけじゃなかったのかよ……!」

ぼやいた直後、指揮車の側面に二本の矢が降りかかった
北から接近して来る軽騎兵が放ってきた物だ

武器C「ヅッ!あぁ糞!」

武器Cは思考を切り替え、軽機の引き金を引いた
矢を放ち終え、蛇行に入ろうとしていた二騎の騎兵の内、
後ろの一騎が放たれた弾を食らい転倒する

武器C「一騎殺った」

一方の指揮車の後方、東側からは三騎の重装騎兵が接近しつつある
重装騎兵達は散会こそすれど、軽騎兵のように蛇行運動はせず、
まっすぐこちらへ向ってくる
82車長は指揮車の屋根の上に座り、真後ろに向けた重機関銃を構え、
重装騎兵の内の一騎を狙う
そして発砲
何回かに分けて撃ち出された12.7mm弾は先頭の重装騎兵の装甲を貫く
装甲を纏った馬は血を噴き出し、弾け飛ぶように転倒
騎手も出血しながら、地に投げ出された

82車長「よぉし……」

そのまま次の重装騎兵に狙いを移そうとする

82操縦手「車長、西から別の騎兵が」

しかしその前に82操縦手から声が掛かった
振り替えると、指揮車の前方から先程の二騎とは別の軽騎兵が一騎向ってきている

82車長「回りこんできたのか、誰か対応……」

82車長は誰かに対応させようと指示を飛ばそうとする
だがその直前、82車長の耳が風を切るような音をとらえる

82車長「ッ?……がぁッ!?」

そして次の瞬間、82車長の右肩に激痛が走った

82操縦手「車長!」

82車長の右肩に、背中側から矢が突き刺さっていた
それを目にした82操縦手は、ハッチを抜け出し82車長の所へと駆け寄る

82車長「痛ってェ……!糞がぁ……ッ!」

82操縦手「車長に矢が!82車長三曹が負傷した!」

特隊A「何ぃ!?」

82操縦手の大声に、特隊A等は驚いて指揮車へと振り向く

82操縦手「誰か手を!」

82車長「いい……ッ!」

82操縦手は助けを呼ぼうとするが、82車長が言葉を遮った

82車長「それより、残りの敵がそこまで来てる!82操縦手……俺の代わりに銃座に着け!」

82操縦手「ッ、分かりました」

82操縦手は82車長に代わり、重機関銃の握把を握る
重装騎兵は目前まで迫っていた
その重装騎兵に向けて、82操縦手は発砲
間近で12.7mm弾の直撃を受け、重装騎兵は文字道理砕け散った

82操縦手「まずい」

だが最後の一騎が重機関銃の俯角外に潜り込んだ

武器C「近ぇんだよ糞野郎!」

指揮車の傍まで潜り込んできた重装騎兵に向けて、武器Cがとっさに反応
数発発砲した
だが命中した弾はいずれも装甲に阻まれ、致命弾とはならなかった

武器C「嘘だろ!」

そして重装騎兵は手にした剣を振り上げ、武器Cへと切りかかって来た

武器C「ッ!?やべぇ!」

武器Cは直前で横に大きく飛んだ
その直後、重装騎兵の剣は先程まで武器Cがいた場所を切り裂いていった
あと少し遅ければ真っ二つになっていたかもしれない

武器C「野郎……どこまでもふざけやがって!」

重装騎兵は指揮車から離れて行く
武器Cはその背中向けて軽機を構え、再度引き金を引こうとした
だがその前に、重装騎兵の周りでいくつもの小爆発が巻き起こった

武器C「ッ!」

続けて聞こえてきたのは、急激に大きくなるエンジンの唸り声
武器Cが南東の方向に振り向くと、
視線の先から走ってくる高機動車の姿が見えた
高機動車搭載の40mmてき弾銃が重装騎兵むけて発砲したのだ
てき弾の爆発と、破片の炸裂を四方から浴びた重装騎兵は、
騎手、馬共に肉片を四散させ、地面にその身を横たえた

武器C「見ろ、高機だ」

高機動車はそのまま指揮車の横まで走りこんできて停車

補給「第一分隊一組、展開しろ!」

そして隊員H率いる一組が高機動車から降車し、周囲へ展開してゆく
補給自身も高機動車の助手席から降り、指揮車の影へと走った

補給「状況は?」

武器C「敵騎兵はあと数騎が残存、現在交戦中です。
    それと、82車長三曹が矢を食らって負傷を」

武器Cが指揮車の上を指し示す
報告に補給は表情を苦くしたが、戦闘は継続しているため
必要な指示だけを口にする

補給「分かった、戦闘は第一分隊が引き継ぐ。
    君は衛隊Aを手伝い、82車長三曹の救護を。いいな?」

武器C「分かりました」

一方、横転した馬車の影で、特隊Aは残る軽騎兵二騎と対峙している

特隊A「ウロチョロすんなよ!」

悪態を吐きながら、騎兵の片方に向けて二発発砲する

特隊A「糞、はずれた!」

そこへ隊員Hと支援Bが駆け込んできた

隊員H「よぉ!おまたせ!」

特隊A「遅ぇよ!あんた54普の人か?」

隊員H「あぁ、今どうなってる?」

特隊A「あのチョコマカ走り回ってる二匹で最後だ!
      要人はこの馬車ん中に閉じ込めてある!」

隊員H「よーし支援B、デザートは俺等がいただけそうだぞ」

支援B「そりゃうれしいですね……」

支援Bが軽機を構え、蛇行を続ける騎兵の進路に5.56mm弾を注ぎ込む
それに加えて隊員Hが、切り内で数発発砲
多数の弾が命中し、軽騎兵は沈黙

隊員H「あと一騎」

残るもう一騎に狙いを移し、同様に攻撃を実行
最後の軽騎兵が地に倒れ、周辺の敵は完全に沈黙した


戻る